私が暮らしているバタンガス州リパ市には、数え切れないほどの小さな食堂があります。フィリピンではこうした食堂を「カンティーン」と呼び、朝から夜まで地元の人々でにぎわっています。日本でいうなら定食屋や町の食堂といった存在で、気取らない雰囲気の中で手頃な価格で家庭的な料理を楽しむことができます。仕事帰りの人や学生、家族連れが立ち寄る姿は日常の風景の一部です。



そのカンティーンで、私が特によく注文するのが「チャプスイ(広東語 雜碎、英語 chop suey)」です。チャプスイはもともと中国料理にルーツを持ちますが、ここフィリピンでは独自にアレンジされ、すっかりローカルフードのひとつとして定着しています。特にリパ市のカンティーンで食べるチャプスイは、素朴でありながらも彩り豊かで食欲をそそる一皿です。
大きめの皿に盛り付けられたチャプスイには、地元で採れた新鮮な野菜がふんだんに使われています。にんじんの鮮やかなオレンジ色、白菜の白と緑のコントラスト、さやいんげんといんげんの深い緑。さらに、ベビーコーンの黄色が彩りを添え、見ているだけでも元気をもらえるような仕上がりです。これに加えて豚レバーが炒め合わせてあり、野菜のシャキシャキとした食感に加えて濃厚な旨みが感じられるのも特徴。単なる野菜炒めではなく、満足感のある食事に仕上がっています。
味付けは、日本の野菜炒めと比べるとやや甘め。少しとろみがついていて、甘みと塩気がバランスよく絡み合い、ご飯がどんどん進む味わいです。レバーのコクと野菜の甘さが一体となり、食べていて飽きがこないのが魅力。カンティーンによって微妙に味付けは異なりますが、どの店でも「家庭の味」を大切にしていて、ほっとする安心感があります。
私がチャプスイを頻繁に食べる理由は、もちろん美味しいからですが、それ以上に「身体にいい」からです。フィリピンの食事はどうしても揚げ物や肉料理が多くなりがちですが、チャプスイは豊富な野菜を一度に摂れる貴重な存在です。栄養バランスが良く、食べ終わった後も胃がもたれることがありません。地元の人にとっても、野菜不足を補う身近な料理として重宝されているように感じます。
特にリパ市は農業が盛んな地域なので、野菜の鮮度が高いのも大きな魅力です。市場には毎朝新鮮な野菜が並び、カンティーンでもそうした食材がすぐに調理されて提供されます。だからこそ、同じチャプスイでも他の都市で食べるものより、野菜の力強さやシャキッとした食感が際立っているように思えます。
私の日常の中で、チャプスイはもう欠かせない存在です。忙しい日の昼食や、ちょっと体に優しいものを食べたいと思った時には自然と選んでしまいます。野菜の種類が多く、その日の体調や気分に合わせて「今日は特に白菜が美味しいな」とか「ベビーコーンが甘いな」と感じるのも楽しみのひとつです。
地元のカンティーンは、決して豪華な店ではありません。プラスチックの椅子とテーブル、シンプルな内装。しかし、そこで出てくる料理には、その土地の空気と人々の暮らしが詰まっています。チャプスイを頬張りながら周りを見渡すと、同じように食事を楽しむ人々の姿があり、「ああ、ここが自分の暮らす場所なんだな」と改めて実感します。
フィリピンの料理というとアドボやシニガンが有名ですが、地元の人々にとって日常に根付いているのは、こうしたカンティーンの料理です。中でもチャプスイは、華やかさと素朴さ、栄養と美味しさを兼ね備えた一品として、私の食生活を支えてくれています。これからもきっと、私はこの地元のチャプスイを繰り返し味わい続けることでしょう。